肺高血圧・末梢血管疾患・脳血管疾患

全身の血管障害の診断治療、肺高血圧について
早期診断と早期治療を提案します。

診療内容

“人は血管とともに老いる”と言われるように、食生活の欧米化と急速な高齢化社会の到来により動脈硬化性疾患の増加が指摘されています。

動脈硬化は、心臓の冠動脈をはじめ下肢動脈、腎動脈、頸動脈、鎖骨下動脈など全身の主要な動脈に及び血管を細くし詰まらせ、様々な臓器の機能障害を引き起こします。また、動脈硬化は血管の一部の壁がコブの様になる動脈瘤や血管の壁が裂ける動脈解離の原因にもなります。また、もう一つの高血圧症と言われる肺高血圧症は、かつては治療方法に乏しかったのですが、今では治療の選択肢が増えてきました。特に治療薬の開発やカテーテル治療は目覚ましい進歩があります。早期の診断を行い、早く治療すれば元気になれる可能性があります。

当科では末梢血管疾患、虚血性脳血管障害、頸動脈硬化疾患、そして、肺高血圧症などの診断・治療を行っています。また、救急救命部・脳神経外科と協力して、心筋梗塞などの循環器疾患のみならず、脳血管障害の急性期治療も実施しています。

患者さんに負担の少ないエコー、CT、MRなどの画像診断を用いた血管疾患の迅速かつ正確な診断ができるように努めており、内科的治療を基本に、必要に応じて低侵襲なカテーテル治療や外科的手術を選択し、安全で質の高い血管診療を実践したいと考えています。末梢血管障害や肺高血圧症を疑われる方が居られましたら、速やかに診断、治療を行います。

対応疾患

  • 末梢血管疾患
    頸動脈・鎖骨下動脈狭窄症、腎動脈狭窄症、閉塞性動脈硬化症、末梢動脈塞栓症など
  • 肺高血圧症(成人先天性心疾患に伴う肺高血圧症、慢性血栓塞栓性肺高血圧症を含む)
  • 静脈血栓塞栓症(急性肺塞栓症、深部静脈血栓症)
  • 心原性脳梗塞、塞栓源不明の脳梗塞

主な対応疾患

肺高血圧症

肺循環とは、右心室→肺動脈→肺毛細血管→肺静脈→左心房という肺を中心とした血液の循環を指しますが、その中で「肺動脈」の血圧が高くなる病気を「肺高血圧症」と言います。息切れや呼吸困難を来す病気です。

肺高血圧症は、以前は予後不良でしたが、近年では診断技術・治療法の進歩により長期生存も可能となっています。ただし、そのためには、早期診断・早期治療が非常に重要です。

肺高血圧症は、一次性(特発性や遺伝性)だけでなく、二次性(膠原病・血液疾患・門脈圧亢進症・肺疾患・血栓塞栓症などに伴う)のものもあります。そのため、当院では膠原病内科・呼吸器内科・肝臓内科・血液内科など各診療科と連携し、血液検査・心電図・呼吸機能検査・心エコー検査・胸部CT・肺換気血流シンチグラフィー・睡眠時無呼吸検査等による早期診断を行っています。確定診断のためには、心臓カテーテル検査を行います。

治療に関しては、高い肺動脈圧(肺血管抵抗)を下げるため、病態に応じて酸素療法、利尿剤、抗凝固薬、経口の肺血管拡張薬(PGI2誘導体・PDE5阻害薬・エンドセリン受容体拮抗薬・可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬など)や、持続点滴による治療(PGI2持続静注療法)などを組み合わせて行います。【図2】急性肺塞栓症に対しては、血栓溶解療法・抗凝固療法に加え、重症の場合には外科的な血栓摘除やカテーテルによる血栓吸引・血栓溶解治療を行うこともあります。また深部静脈血栓症に対しては、肺塞栓症の予防のため下大静脈フィルターの留置も行っています。【図1】一方、慢性血栓塞栓性肺高血圧症では、これらの治療でも限界があり、バルーン肺動脈形成術という特殊な治療のため、他の専門施設へ紹介することもあります。


【図1】下大静脈フィルターの写真【下大静脈フィルター】

【図2】PGI2持続静注療法の図【PGI2持続静注療法】

下肢閉塞性動脈硬化症

血液が足先に流れる途中の血管に動脈硬化が起こり、血管が細くなったり、つまったりして、十分な血液が足の筋肉や皮膚に流れなくなり発症する病気です。

初期
足先の冷えなどを感じます。
中期
間歇性跛行
すこし歩くと筋肉(腰、おしり、太もも、ふくらはぎ)のだるさや痛みが強くなって歩けなくなり、少し安静にすると痛みは消失します。
※間歇性跛行には下肢閉塞性動脈硬化症による血管性の間歇性跛行と、整形外科的な疾患(脊柱管狭窄症など)で起こる神経性の間歇性跛行があります。鑑別が必要です。
末期
重症虚血肢
じっとしているのも困難な激しい痛みを感じるようになったり、ちょっとした足先の傷(靴擦れ、深爪、どこかにぶつけたなど)をきっかけに指先に潰瘍ができたり、さらには進行すると壊疽(指がまっ黒くなる)になり、いくら塗り薬を塗っても治らなくなります。
そのまま適切な治療を行わず放置すると、足が壊死し、切断しなければならない事態になる可能性もあります。

下肢閉塞性動脈硬化症と診断された方は他の部位にも動脈硬化が起こっていることが多く、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞などを発症する確率が高いと言われています。高血圧、糖尿病、脂質異常症(高コレステロール血症)、喫煙、透析を受けている方に動脈硬化は起こりやすいと言われています。このように動脈硬化は体中のあらゆる動脈で起こる可能性があるため、いずれの部位であれ動脈硬化と診断された方は、他の部位も早期に検査し、発見、治療することが非常に重要です。

【図3】【下肢閉塞性動脈硬化症 治療前後の写真】

頸動脈狭窄症/心原性脳塞栓症/原因不明の失神や脳梗塞

頸動脈は、大動脈からの血液を脳に流す太い血管です。頸動脈は、頭の中に血液を送る血管(内頸動脈)と顔や頭皮に血液を送る血管(外頸動脈)に分かれます。ここを頸動脈分岐部といい動脈硬化の好発部位です。「頸動脈狭窄症」とは、この頸動脈に動脈硬化が生じ、細くなる病気です。狭窄部分を粥腫(アテローム)と言います。これが原因で、脳への血流が低下したり、また狭くなった部分から血の塊や粥腫内の血管の破綻が起きて、その中の成分が血流とともに流れて行き脳血管を閉塞し、脳梗塞をおこしたりします。

脳梗塞全体の約1/4 は原因不明あるいは原因が特定されない脳梗塞(cryptogenic stroke:潜因性脳卒中)と言われており、その大部分は原因がわからない塞栓とされています。これらの原因不明の脳塞栓症の想定される原因として、見つかっていない心房細動、悪性腫瘍、動脈硬化によるもの、心臓の弁や形態など構造的な問題 などがあると言われています。脳卒中臨床ではこれらの原因を調べるための検査を用意しています。
また、失神の原因となる不整脈と、心原性脳塞栓症の原因となる心房細動は、いつ起きるか分からず、短期間の検査では検出できない場合があります。そこで当院では植え込み型心臓モニタを胸部皮下に挿入し、その原因となる不整脈を3年程度観察する事が出来ます。【図4】

また、心房細動(循環器内科参照)になると心房がけいれんするように小刻みに震えて、規則正しい動きができなくなります。このため心房内に血の固まり(血栓)ができ、脳の血管を突然閉塞するのが心原性脳塞栓症です。心房細動がある人は心房細動のない人と比べると、脳梗塞を発症する確率は約5倍高いと言われています。【図5】

最近では心房細動に対する根治療法として、原因となる心臓の一部をカテーテルで焼いて直すアブレーションという治療も有効です。ただし、すべての心房細動患者さんにカテーテルアブレーションが有効とは言えず、またカテーテル治療に伴う合併症のリスクも存在します。その適応については当科の不整脈専門医までご相談ください。


【図4】【植え込み型心臓モニタ:Reveal LINQ®(販売名:メドトロニック Reveal LINQ)】


【図5】【日本脳卒中協会 の図】