研究紹介

総論

臨床現場の未解決課題を克服する

研究は大学病院と他の病院が大きく異なる点です。急性心筋梗塞患者に対する再灌流療法が成功したにも関わらず、心機能がむしろ障害される虚血再灌流傷害はなぜ生じるのでしょうか?また、心不全の約半数を占める「左室収縮能が保持された心不全(HFpEF)」に対する有効な治療法は未だ確立されていません。多くのHFpEF患者では腎機能障害が認められますが、両者の関連も十分に解明されていません。さらに、腎生検は患者さんのみならず実施する医師にもとてもストレスがかかる検査です。腎生検は画像診断で代用できないのでしょうか?このように臨床現場には未解決な課題が山積しています。これらの課題を解決するためには、心筋虚血再灌流傷害の成立機序や拡張不全の病態を明らかにするための基礎研究が必要です。また、腎生検で認められる増殖メサンギウム細胞の膜表面に発現している分子を検索する必要もあるでしょう。日頃、各教室員が感じているクリニカルクエスチョンを解決するために基礎研究や臨床研究を行い、その成果を臨床現場に還元していきたいと思います。また、原因不明で、治療方法が確立されていない“難病”に対して、次世代シークエンサーを用いたゲノム解析プロジェクトを大阪大学と共同で実施しています。特に、家族歴を有する難病患者さんたちの病態をゲノムレベルで解析を進め、原因遺伝子を同定し、治療法の開発を進めます。さらに、産学連携により、心房細動検出や心不全モニタリングの医療プログラムや医療機器の開発を進めていきます。近年、“心不全パンデミック”と叫ばれるほど、心不全患者は激増しています。しかし、増加する心不全患者をチーム・地域で診る体制は確立されていません。日本最大の医療ITネットワークであるK-MIX(かがわ遠隔医療ネットワーク)を活用して、心不全に対する新しい地域医療や臨床試験・治験プラットフォームを整備しています。限られたマンパワーですが、教室員が力を合わせて、心・腎・脳連携で特色のある研究を展開していきます。

循環器内科

心不全

基礎研究

心筋の収縮不全のメカニズムの解明がテーマです。これまでにβ受容体機能不全と左室リモデリングの関係をβ受容体過剰発現マウスによる検討で進めてまいりました。また、ミトコンドリアのUCP-2の発現や腎交感神経デナベーションによる心機能に与える影響を検討してきました。今後も臨床応用を目指したトランスレーショナルリサーチを進めていきます。

臨床研究

高血圧性心肥大患者に対するアルドステロン阻害薬の心肥大退縮効果やARBの心臓自律神経系に与える影響を報告してきました。拡張型心筋症患者の心機能低下に慢性炎症、特にT細胞の変化が関連している事を報告しました。今後は、次世代シークエンサーを用いた特異遺伝子の検討を介して、post genomic医療で新たな治療介入を考案したいと思っております。

冠動脈インターベンションのデバイス開発および多施設臨床研究への参加

当院では、いわゆるハイボリュームセンターのようなカテーテル検査・治療の症例数はありませんが、難易度の高い症例の割合は非常に多い施設です。特に冠動脈インターベンションにかかわる冠動脈形成術用バルーンやガイドワイヤーなどの各種デバイスに関しては、それらの使用経験から得られる疑問や意見を企業に還元し、新しいデバイスの開発にかかわっています。

冠動脈インターベンション症例は、日本心血管インターベンション治療学会主導のJ-PCI(本邦における心血管インターベンションの実態調査)に全例登録し、今後、心房細動合併急性冠症候群における抗血栓治療後の観察研究など、多施設臨床研究にも積極的に参加予定です。

自動血圧計に付帯する不規則脈波検出機能による心房細動検出についての検討

心房細動は脳塞栓の原因になる不整脈ですが、年齢と共に発症しやすくなり、自覚症状を感じにくい患者さんも多いという特徴があります。最近のデジタル自動血圧計の機種によっては、不規則脈波を検出する機能が備わっています。本機能をうまく活用することで、血圧測定によって心房細動を早期に発見することができれば、早期に治療を開始することで脳塞栓を予防することが可能になります。どのような測定方法が有用かを検討するために、2017年3月より臨床研究を開始しています。

心房細動のカテーテルアブレーションにおける焼灼指標についての検討 (COMPASS study)

心房細動に対するカテーテルアブレーション(肺静脈隔離術)は確立した治療法です。局所の高周波通電によって有効な電気的焼灼が得られたどうかの指標として、カテーテル先端の接触圧(contact force)と単極電位変化の有用性が報告されていますが、両者の治療効果を比較した報告はありませんでした。東京女子医科大学を主導に両者を比較する臨床研究として多施設共同研究(全国8施設)が行われており、当院も参加しています。より有用性の高い治療方法を見出し、今後の治療に生かす試みです。

疾患原因ゲノムの領域の同定と情報解析法の確立

近年は科学技術の発展によって一人の人間が持つすべての遺伝子と病気の関係を調べる研究が可能になってきています。以前は一人のゲノム解析に年単位の時間を必要としていましたが、近年では週単位での全ゲノム解析が可能となってきており、病気の原因や治療につながるような様々な情報が得られるようになってきています。当科では、大阪大学などの学外研究機関と共同して、病気に関係する遺伝子や薬の効き目に関係する遺伝子を調べ、遺伝子解析技術を取り入れた病気の診断、治療にむけた研究を行っています。

腎臓内科

生体腎移植におけるマージナルドナー・再発腎炎の研究

当院で施行した100例の腎移植症例を用いた小規模臨床研究を行っています。

  • 生体ドナー不足により、加齢や高血圧を有する腎臓の提供が多くなっています。腎移植では提供腎の腎生検を行い、ベースラインの状態を確認してから腎移植を行います。我々はこのベースライン腎生検での動脈硬化病変が高血圧やドナー年齢にかかわらず移植腎機能を規定する因子であることを示しました。また、ベースライン腎生検は検尿異常のない腎臓を見ることのできる貴重な機会です。ベースライン腎生検での『腎臓の老化』が移植腎にどのような影響を与えるのかについても研究をしています。
  • また、腎移植後に移植腎にIgAが沈着するけれども蛋白尿・血尿をきたさないという病態があります。腎生検を行うことなく血清学的なバイオマーカーだけでこの状態を検出することができれば、非移植症例においてもIgA腎症の発症を未然に予知できる可能性があります。現在われわれはこれらバイオマーカーが腎移植後IgA腎症の進展予測因子、発症予測に用いることができるかどうか研究を行っています。

抗がん剤使用時の腎障害早期発見のためのバイオマーカー

がん薬物療法の進歩に伴い、癌患者の予後が改善し、抗がん化学療法や分子標的薬治療を受ける患者数が増加している。抗がん薬は様々な臓器と深い関連を有しており、がん薬物療法の有害事象である腎毒性は、有効ながん治療の遂行を妨げ、がん患者のQOLを低下させる。現時点では、多くの抗がん薬について、腎障害がおきた場合の治療法が確立していないため予防が第一となる。腎障害を早期発見するだけでなく、腎障害を有しやすい群を見分けるためにも投与前に患者腎機能を正しく測定するバイオマーカーが必要である。

シスプラチンは多くの癌種に対する抗癌治療のkey drugであり、最も汎用されている抗がん薬の一つである。頭頸部腫瘍患者では、シスプラチン投与と放射線療法を併用することにより非常に高い治療効果を得ている。用量依存性に腎毒性が出現するが、現時点では腎障害を早期に発見するマーカーがなく、腎障害を早期に検出できるマーカーを見つける必要がある。耳鼻科、腫瘍内科とも連携し、シスプラチン投与を受ける患者の尿中バイオマーカーを測定し腎障害の新規バイオマーカーを検索したいと考えている。

免疫調節物質ガレクチン-9を用いたIgA腎症の病態解明と臨床応用

ガレクチン-9はレクチンの一種であり、香川大学で発見されました。ガレクチン-9は免疫細胞の分化やアポトーシスに関係し、免疫調節に重要な役割を担うことがわかっています。我々はガレクチン-9をループス腎炎モデルマウスに投与することにより、自己抗体を減少させ、蛋白尿を改善させることを示しました。この知見をもとに、IgA腎症におけるガレクチン-9と疾患重症度や寛解率との関係や、扁桃腺の免疫細胞に与える影響について明らかにし、IgA腎症の病態解明とガレクチン-9の臨床応用を目指した研究を行っています。