家族性高コレステロール血症(Familial Hypercholesterolemia: FH)は、lowdensity lipoprotein (LDL) 受容体関連遺伝子の変異による遺伝性疾患であり、常染色体優性遺伝形式をとり、FHヘテロ接合体患者は250-500人に1人の高い頻度で認められるとされています。FH患者は生下時より持続する著明な高LDL-C血症を示し、無治療では80%以上が冠動脈疾患に罹患し、健常者より平均15年短命であることが報告されています。FH患者では10歳頃から急速に動脈硬化が進行するとされていますが、食事療法・スタチン治療などを早期に開始することにより、その進行を抑制し、心血管系イベント発症を予防することが可能であるため、小児期からの早期診断・早期治療が重要となります。しかしながら、小児FHは自覚症状・身体所見に乏しいことや日本では身体所見を有する成人FHでさえ診断率が極めて低い(1%未満)ことから、小児期からの早期診断・早期治療は容易でないのが現状です。
平成24年度以降、香川県では小児生活習慣病予防健診(以下、香川小児健診)が実施されており、本健診では、毎年、県下の小学4年生ほぼ全員(約8,000名、実施率 95%)を対象として、脂質異常を含め小児生活習慣病に関連する血液検査が実施されています。香川小児健診でLDL-C値≧140 mg/dLを示した小児に対して、医療機関への受診勧奨が行われており、このユニバーサルスクリーニングを実施後、LDL-C高値を示した児童に対して十分な倫理的配慮の下に遺伝子検査を実施する二段階スクリーニングが行われています。本研究では、香川県独自の取り組みを活用し、地方自治体、香川県医師会、大学・基幹病院が一体となり、“オール香川”(図)で小児FHの早期診断・早期治療に取り組んでおり、科学的エビデンスの構築を図るとともに、そのエビデンスに基づく小児FH診断ガイドライン作成・改定は、小児の健全な生育に大きく寄与することから、本研究の社会的意義は大きいと考えられます。
本研究での取り組みにおいて、①小児生活習慣病予防健診の精度向上、②高LDL-C血症を示した児童の医療機関受診率向上、③FH診断率の向上(現状の1%未満から30%へ)、④医療ITCを活用した地域連携の実現、⑤小児生活習慣病予防健診の日本全域への普及・展開、⑥動脈硬化進展予測バイオマーカーの開発により、遺伝子検査を必要としないハイリスク群の層別化の実現を目指します。
当院では毎週火曜日午前・午後にFH専門外来を行っております。地域の病院、医院、クリニックの先生方と協力してFHが疑われる患者さんの診断や狭心症などの評価、治療を行っておりますので、ご紹介を宜しくお願い致します。